現代社会において、うつ病や精神疾患は年々増加傾向にあります。厚生労働省の調査によると、日本における精神疾患の患者数は2020年時点で約420万人に達し、そのうちうつ病を含む気分障害の患者数は約127万人とされています。
このように、もはや誰もが経験する可能性のある身近な健康問題となっているうつ病と精神疾患について、その関係性や対処法を理解することは、私たちの心身の健康を守る上で重要な課題となっています。
うつ病について
テレビやニュース、日常の会話などで耳にする「うつ病」ですが、皆さんはどのようなイメージを持っていますか? まずはうつ病とは何かについて説明したいと思います。
うつ病についてと主な症状
うつ病は、悲しみや空虚感が続いたり、今まで持っていた興味や感じていた喜びが感じられなくなる等を主症状とする精神疾患の1つです。WHO(世界保健機関)の発表では全世界で約2億8000万人がうつ病を経験しており、世界的に見ても社会問題の1つとなっており、その対策が課題となっています。2週間以上継続する気分の落ち込み、不眠や過眠、食欲・体重の著しい変化、疲労感、集中力低下、自責感、自殺念慮などの症状のうち該当する項目が多いほどうつ病と診断される可能性が高くなります。
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参考:WHO Depressive disorder(うつ病について)
うつ病の原因と危険性
職場や学校でのストレス、人間関係の問題、経済的困難などの環境要因が大きく影響します。厚生労働省労働者健康状況調査によると、労働者の約87%がストレスを感じており、特に長時間労働や過重な責任がうつ病発症のリスクを高めることが報告されています。
また、「遺伝的要因」と「ストレス的要因」の2つがあり、遺伝的要因では、国立精神・神経医療研究センターの研究報告によると双子研究から、うつ病の発症には遺伝的要因が約40%関与していることが示唆されています。特に、セロトニントランスポーター遺伝子の多型が、ストレスへの脆弱性を高める可能性が指摘されています。もう一つのストレス要因では、強いストレスイベントを経験した人は、そうでない人と比べてうつ病を発症するリスクが約2.5倍高まることが報告されています。
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参考:厚生労働省 「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」より
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参考:国立精神・神経医療研究センター「うつ病研究の現状と課題」より
うつ病からの回復は早期発見が重要!?
早期発見・早期治療により、約80%の患者で症状の改善が期待できるという研究報告もあり、なるべく早い対応が早期回復のポイントとなるようです。うつ病の警告サインとしては、2週間以上続く不眠、食欲不振、意欲低下、集中力低下などが挙げられます。
症状自覚から受診までの期間が3ヶ月を超えると、回復期間が約2倍になるという報告もありますので、「何かおかしいかも?」と思ったら、専門家への相談をしてみるといいかもしれません。
うつ病と精神疾患の関係について
うつ病は精神疾患の1つです。さらに精神疾患は他の精神疾患とも関連性があり、他の精神疾患と併発している場合もあります。ここでは、うつ病と関連のある精神疾患について紹介をしたいと思います。
うつ病と併存しやすい精神疾患
- 不安障害
不安障害とは誰でも経験する不安や心配が、過度に強く長く続き、日常生活に支障をきたす状態を指します。通常の不安とは異なり、その強さや頻度が本人でもコントロールできないことが特徴です。不安障害の方がうつ病を併発する割合は70%という報告があり、うつ病と不安障害の併発は珍しくないことが分かります。不安障害との併存は症状を複雑化させ、治療期間が約1.5倍延長する傾向があるそうです。主な症状として、過度の心配、落ち着きのなさ、集中困難などが重なって現れ、生活への支障が大きくなることが報告されています。
- パニック障害
パニック障害は、突然の動悸や呼吸困難、めまいなどの発作(パニック発作)が予期せず起こり、その再発への不安から日常生活に支障をきたす精神疾患です。パニック障害を抱える人の50~60%がうつ病を併発しているという報告があります。パニック発作による急性の不安症状が、うつ病の症状を悪化させる要因となり、社会生活への適応をより困難にすることが指摘されています。
- 適応障害
適応障害は、転職や転居、人間関係の変化などの環境の変化によるストレスに適応できず、不安や抑うつ、イライラ、不眠などの精神的・身体的な症状が現れる状態のことです。通常のストレス反応を超えて、日常生活に支障をきたすことが特徴です。厚生労働省の調査によると、うつ病患者の約20%が適応障害を併発しています。環境の変化やストレス要因に対する不適応が、うつ病の発症や悪化のきっかけとなることが多く、特に就労世代での併存率が高いことが特徴です。
症状が重なった場合とその影響について
うつ病と他の精神疾患が併存する場合、睡眠障害や食欲不振などの症状が重複して現れます。これにより、個々の疾患に特有の症状が不明確になり、治療方針の決定が複雑化する傾向があります。
また、併存する場合、薬物療法と心理療法を組み合わせた総合的なアプローチも行います。単独治療と比較してより良い治療効果が得られることがあり、再発予防の観点からも、複数の治療法を組み合わせることが確認されています。
解決するための療法の紹介
精神疾患を患ってしまった方に対して、有効な治療法として、心(メンタル)を癒すアプローチの「心理療法」と、薬を使った「薬物療法」というものがあります。
特に重症例では、この心理療法と薬物療法の併用により、単独治療と比較して約75%の患者でより良い治療効果が得られることが報告されており、両者の組み合わせが標準的治療として推奨されています。
ここでは、簡単にではありますがそれらの治療法について紹介をしたいと思います。ただし、疾患の種類や様々な周りの環境、患うきっかけは人によって異なります。そのため具体的な支援方法を知りたい場合などは近くの医療機関等に相談して頂くのが良いかと思います。あくまで参考や勉強のきっかけとなれは幸いです
認知行動療法
認知行動療法は、精神疾患の1つであるうつ病や不安障害などの精神的な問題を改善するための効果的な治療法の1つです。基本的な考え方は、私たちの思考(認知)と行動が感情に大きな影響を与えるというものです。治療では、患者さんが自分の否定的な考え方を把握し、それをより健康的な考え方に置き換える方法を学びます。
例えば、「自分は何をやってもダメな人間だ」という考えが、気分の落ち込みや外出を避けるといった行動につながっています。認知行動療法では、このような考え方のクセ(認知の歪み)に気づき、より柔軟な考え方ができるようにしていきます。ストレスや不安、恐怖などの問題に対処するため、現在の思考や行動を少しずつ柔軟に変化させ、考え方を変えることで感情や行動にも良い変化をもたらす療法になります。
マインドフルネス
インドフルネスとは、「今、この瞬間」に意識を向け、価値判断をせずにそのまま受け入れることをいいます。私たちは主に過去の後悔や将来への不安に心を奪われがちですが、マインドフルネスでは「今」に注目します。
例えば、「息を吸って、吐いている」という呼吸そのものに意識を向けたり、「今、鳥の声が聞こえている」といった現在の体験に気づきを向けたりします。この練習を通じて、ネガティブな思考にとらわれすぎない心の状態を作ることができます。
また、日常生活での取り入れることができる療法の1つでもあり、特別な場所や道具がなくても実践できるのがマインドフルネスの良いところです。例えば、朝のコーヒーを飲むとき、その香りや温かさ、味わいに意識を向けることから始められます。歩くときも、足の裏の感覚や体の動き、周りの景色に注意を向けることができます。食事の時も、食べ物の色や形、味や食感に意識を向けることで、マインドフルネスを実践できます。このような小さな実践を、少しずつ日常に取り入れていくことがポイントになります。
薬物療法
薬物療法は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、うつ病の症状を改善する治療法です。抗うつ薬には、気分の落ち込みを改善したり、不安を和らげたりする効果があります。
ただし、効果が現れるまでに2〜3週間程度かかることが一般的で、医師との相談のもと、継続的に服薬することが重要です。また、眠気や吐き気といった副作用が出ることもありますが、多くの場合、時間とともに軽減していきます。よく使われる薬には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬))などがあります。
外部リンク
参考:国立精神・神経医療研究センター うつ症について
外部リンク
参考:国立精神・神経医療研究センター 不安症について
【まとめ】うつ病と精神疾患関係は?メンタルケアとサポートの仕方
今回はうつ病と精神疾患との関係性やその対処法について、少し紹介をさせて頂きました。うつ病は「こころの風邪」とも呼ばれ、軽い感じのイメージを持つ方もいますが、実際には患い易く、回復に時間がかかるケースも多くあります。さらに遺伝的要因、環境要因、に加え、他の精神疾患と併発する可能性が高いのでとても厄介です。
ただし、それでも「うつ病は治療可能な病気です」適切な支援と治療があれば、多くの人が回復への道を歩むことができます。ここの病院だけでなく、政府でも解決に向けて様々な政策を行なっています。少しでも多くの人が理解を深め、思いやりを持って接することができるといいですね。