精神疾患を知る PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状やメンタルヘルスケアとは

「津波の被害を受けて、海に近付けなくなった」

「火事に遭って、マッチのような小さな火を見るだけでも動悸が激しくなる」

このような話に聞き覚えの有る方は多いのではないでしょうか?これは「PTSD」と呼ばれている精神疾患の1つで、過去の経験が強く影響しているものです。今回はこのPTSDについて紹介をしていきたいと思います。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?

まずはPTSDの基本的なことから確認していきましょう。

PTSDとは「Post Traumatic Stress Disorder」の略称であり、「心的外傷後ストレス障害」とも呼ばれています。PTSDは精神疾患の1つで、自分の生死に関わるような出来事であったり、他人の死を目撃したなど非日常的な強いストレスに遭遇した経験などが、時間が経った後から思い出されて恐怖を感じ続ける病気です。

PTSDの原因となりやすい出来事としては以下のものが挙げられます。

  • 虐待
  • 地震
  • 洪水
  • 火事
  • 津波
  • 暴動
  • 戦争
  • いじめ
  • 性的暴行 など

外部リンク
参考:米国退役軍人省(VA) VA National Suicide Data Report

※リンク先は日本国外のページになります

世界的に見ると軍人が退役後にPTSDを発症するケースが多くみられます。そして、日本では自然災害が多く、地震や津波などでPTSDを発症している方が多くいらっしゃいます。東日本大震災や能登半島地震などを体験した方の苦しみは今でも続いています。

 

PTSDの症状とは?

再体験(侵入症状)

トラウマに関する記憶が自分の意思とは無関係に何度もよみがえり、悪夢として再体験します。また、単に思い出すだけではなく、実際にその出来事が起こっているかのように再体験する「フラッシュバック」が起きる人もいます。記憶がよみがえる時は、精神的な苦痛や様々な身体症状を伴うことがあります。

フラッシュバックをする時は、その経験に関連した出来事がきっかけとなって思い出すことがあります。津波を経験した人ならば海を見たり、火事を経験した人ならば火や花火などを見る。DVや虐待などを受けた人ならば、テレビドラマなどで男性が大きな声を出すのを見るだけで思い出してしまうなんてこともあります。

そして、フラッシュバックは何度経験しても、毎回激しく動揺したり、落ち込んだりと精神的な苦痛を同じように体験します。

回避症状

これはトラウマを思い出すような人や場所などを執拗に避けて、なるべく考えないようになります。暴力を受けた経験から、加害者と似たような体格の人、同じ人種の方と話すことを避けたり、被害にあった場所に近付かないようになるなどが挙げられます。

回避症状が現れると、日常生活の中で行けない場所などが出てきて行動が制限されてしまうこともあります。

思考や気分に対する悪影響

過度に否定的な考え方や捉え方をするようになり、自分が今まで好きだったものや楽しんで行っていたものを含めて、あらゆることに興味や関心を持てなくなってしまいます。

また、自分だけ世間から切り離されたように感じて孤立したように感じたりすることもあります。

そして、考え方が歪んでしまうこともあり、起こってしまったことについて自分や他者を責めることもあります。罪悪感もよく見られて、自分だけが生き残ってしまったことに対して強い罪悪感を抱くこともあります。

例えば、東日本大震災の時などは、目の前にいた人が津波にさらわれたことを助けられなかったことで、強い罪悪感を抱いた方などがいました。

覚醒レベルと反応の変化

危険の兆候に過度に敏感となってしまって、些細なことで驚いたりビクビクしたりしてしまいます。そして集中することが難しくなったり、不眠になったり、イライラしたりすることが多くなります。

自分でこのコントロールができないため、無謀な行動をとったり、急に怒りを爆発させる、自己破壊衝動などが現れるようになります。

外部リンク
参考:MSDマニュアル家庭版 心的外傷後ストレス障害 (PTSD)

 

トラウマとPTSDの違いって?

よく、トラウマとPTSDは混合されがちです。そのためトラウマとPTSDの違いを紹介していきたいと思います。

トラウマはつらい体験で起きる心身の反応です。そして、PTSDはそのトラウマが更にきっかけとなって起こる、精神的後遺症です。例えば、大災害などで生死に関わるような体験をした後、恐怖を感じて動悸が激しくなったり眠れなくなったりするのはトラウマになります。

ですが、PTSDはこの体験がきっかけとなって自分の意思とは関係なくフラッシュバックし、今も被害を受けていると感じることがあります。トラウマから自然と回復する場合もありますが、PTSDは残りますので、長期的に悩まされいる場合は医療機関などに相談しましょう。

 

単純性PTSDと複雑性PTSDの違いって?

単純性PTSDと複雑性PTSDの大きな違いは、きっかけとなるトラウマ体験です。

単純性PTSDの場合は、暴力や性的暴行など一度の出来事がきっかけとなったPTSDです。比較的治療効果が現れやすいとされており、薬物療法や心理療法などの反応が良く起きやすいそうです。

複雑性PTSDは長期的な虐待、持続的なDVなどの長期にわたる経験をきっかけとします。長期における経験を元とするため、多数のストレスを受けやすく、単純性PTSDよりも日常生活や社会生活に大きな影響をあたえることが多い精神疾患です。また、併存疾患も多いことが判明しているそうです。

外部リンク
参考:国立精神・神経医療研究センター

 

PTSDになりやすい人っているの?

生死に関わる経験をしたといっても全員がPTSDになるとは言い切れません。生物学的要因(遺伝や脳の構造、ホルモンバランスの乱れなど)や、心理的要因などが複雑に絡み合っているとされています。そのため、明確にどのような人になりやすい特徴があるなどは、現段階では言い切ることができません。

ですが、トラウマになるような経験をしたあとに社会的サポートが足りない、生活でのストレスが大きかった人はPTSDが発症しやすいと言われています。また、性的暴行を受けた方などは、周囲にとても言いづらく、相談もし辛い環境になってしまいます。そして1人で悩み我慢してしまい、悪化してしまう事が少なくありません。

 

PTSDとメンタルヘルスケア

なんらかのトラウマ体験によって、心に大きな傷を受けてしまった後どのような対処がされるかで、PTSDの予防として大切だとされています。もちろん100%防げるとは言えません。ですが、するとしないでは差があることも事実です。

何をするのかというと

  • 安全な環境をつくる
  • 安全な人間関係をつくる
  • 自分に対するコントロール能力を回復すること

これらが予防に必要だとされています。

そのためにも、家族や周囲の人ができる限りそばにいて安心させてあげましょう。守ってあげてると伝えるのも有効な手段です。そしてトラウマを思い出すようなテレビや、ニュースなどを避けるようにしましょう。もし見てしまった時は、本人を安心させることが大切です。

自分が抱えている感情や悩みなどを打ち明けた時には、否定せずに聞いてあげましょう。安易に同意も否定もせずに、聞き入れることで本人が話しやすい環境を作ることへとつながります。

外部リンク
参考:文部科学省 心の外傷とその反応

 

【まとめ】精神疾患を知る 心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状やメンタルヘルスケアとは

ここまでPTSDについて紹介をしてきました。PTSDはトラウマ体験から起こるもので、PTSDになった方が悪いなどは一切ありません。医療機関や自治体の相談窓口などでも構いませんので相談しましょう。周囲の方を頼るのは悪いことではありません。

自分を責めたり1人で抱え込んでしまわないようお気を付けください。