依存症は、アルコール、薬物、ギャンブル、ゲームなど様々な対象に対して生じる問題です。依存症に苦しむ人々は、自分の意思とは裏腹に依存対象に強く引き寄せられ、日常生活に支障をきたします。
たとえば、皆さんはどれくらいスマートフォンを利用していますか?また、1日どれくらい使っていますか?ふと周りを見回した際にスマートフォンの利用を見ない時がないくらい普及してきました。最近の調査では、10代後半から20代の若者の1日のスマートフォン使用時間は平均4時間を超えているんです。ちょっと驚きですよね。歩きながら、食べながら使う「ながらスマホ」という言葉やスマホがないと落ち着かない「スマホ依存症」という言葉もちらほらと・・・。利用するのが当たり前な時代になってきましたが「それって依存なの?」って思う人も多いはず。そんな身近な「依存」について知っていきましょう。
依存とは?精神医学からみる理解と対策
依存のメカニズムと精神疾患としての特徴
依存って、実はとってもシンプルな仕組みなんです。好きなゲームをクリアした時や、SNSで「いいね」をもらった時のあの嬉しい気持ち。これは「ドーパミン」という脳内物質が分泌されているからなんです。このドーパミンが出ると、脳は「これ、気持ちいい!もっとやりたい!」というサインを出します。これが依存の正体です。しかし、これって、人間が生きていく上でとても大切な仕組みなんです。例えば、美味しいものを食べた時にまた食べたくなるのも、実はこの仕組みのおかげなんです。じゃあどうしたら良いの?ということで、最近の研究でわかってきたのは、現代社会の様々な刺激が「強すぎる」ということです。特に、ゲームやSNSは、私たちの脳が進化の過程で想定していなかったくらい強い快感を生み出すことがあるそうです。
現代社会における依存の4つの形態
ということで、私たちの周りには、様々な依存のリスクが潜んでいます。また「依存」という言葉を聞くと、なんだかすごく重い病気のように感じてしまいますよね。でもそんなこともなく、誰もが「ちょっと気をつけないとな・・・」と思うようなものばかりなんです。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう!
1つ目:物質への依存
最近の調査によると、20代の約15%が「休肝日なし」の飲酒習慣があるそうです。例えば、お酒を飲まないと眠れない、缶コーヒーが手放せない、エナジードリンクで毎日を乗り切っている。こんな経験、身に覚えがある人もいるのではないでしょうか。特に注意が必要なのは、「これくらいなら大丈夫」という基準が、少しずつ上がっていってしまうことです。朝一番から飲みたくなったり、だんだんと増え、摂取量をコントロールできなくなったりするのは、要注意のサインです。
2つ目:行為への依存
実は一番身近かもしれない依存です。総務省の調査では、18-25歳の約40%が「スマートフォンの使い過ぎが気になる」と回答しているんです。ゲームを終えられない、SNSを頻繁にチェックしてしまう、オンライン動画が止められない。こうした経験は、誰にでもあるものです。問題になってくるのは、時間を決めても守れない、やめようとすると不安になる、大切な課題や約束を忘れてしまうといった状況が増えてきたときです。ただ難しいことに、これって案外気づきにくいんです。「みんなもやってるから」と思いがちですが、自分のペースを見つめ直してみることが大切です。
3つ目:関係への依存
人との関係は大切ですが、依存しすぎると逆効果になることがあります。最近では、スマートフォンの利用が増え、InstagramやTikTokなどSNSの普及で「いいね依存」という新しい形も出てきていますよね。特定の人からの連絡がないと不安になったり、SNSでの反応が気になって仕方なかったり、一人の時間が怖くなったりするなどです。健全な関係との大きな違いは、自分の意見や生活が持てなくなることです。相手の機嫌を過度に伺ったり、他の友人関係が薄くなったりするのは、要注意サインです。
4つ目:仕事への依存
仕事と聞くと社会人だけのイメージがありますが、実は学生の約70%がアルバイトの経験があります。そのため、社会人だけでなく、学生アルバイトも注意が必要です。「忙しい=充実している」という思い込みや、休みの日に罪悪感を感じてしまうのは、実はワーカホリックの初期症状かもしれません。特に見落としがちなのが、睡眠時間が削られていることや、趣味や友人との時間がなくなっていくこと。体調不良のサインを無視して頑張り続けるのは、危険信号です。
ここまで依存について紹介をしてきましたがが、依存には、自身が「もしかしたら・・・」や周りから「ちょっと気になる」という初期段階があります。この段階で気づけることが、実は大きなポイントなんです。完全に避けるのではなく、うまく付き合っていく方法を見つけていくことが大切です。自分の状態が気になったら、「やめたいと思ってもやめられない」「周りから指摘されることが増えた」「自分でコントロールできない」といった点をチェックしてみましょう。心配な点があれば、次に紹介する対策を試してみてください。
外部リンク
参考:スマートフォン利用実態について 総務省「令和5年版 情報通信白書」より
参考:日本労働組合総連合会 学生のアルバイト実態等把握のためのアンケート調査結果(2023)
依存の早期発見とメンタルケア
依存の種類について見てきましたが、「もしかして依存症かも?」と心配になった人もいるかもしれません。でも大丈夫です!依存傾向に早めに気づくことが回復への一歩なんです!依存傾向のサインと、自分でできるケアについて見ていきましょう。
依存傾向チェック(5つの警告サイン)
依存の問題で悩む人は年々増加傾向にあります。では、どんな変化に気をつければいいのかを5つ紹介したいと思います。
1つ目は「使う時間」です。例えば、「ちょっとだけ」のつもりがいつの間にか3時間経っていた…。そんな経験、ありませんか?1回や2回であれば特に問題はありません。ここで注意が必要なのは、その時間が徐々に長くなっていく傾向がある場合になります。
2つ目は「離脱症状」です。わかりやすい言葉に置き換えると「禁断症状」のことになります。スマートフォンを忘れただけで落ち着かない、ゲームができない、タバコを吸えないとイライラするなど。これらの様子があった場合には、身体が「慣れ」=「依存」を起こしている証拠かもしれません。他に現れる身体的特徴として、不眠や頭痛、手の震えがあり、精神的な特徴として、気分の浮き沈み(情緒不安定)や集中力の低下などがあります。
3つ目は「生活への影響」です。何かに依存している結果から、朝起きられない、課題の提出が遅れる、約束の時間に遅刻する。といった日常生活の乱れが出てきたら要注意です。特に、成績や仕事のパフォーマンスへの影響は見過ごせないサインです。
4つ目は「人間関係の変化」です。友達との約束より、オンラインゲームを優先してしまう。家族や友人などから「最近変わった」と言われる。こんな変化が出てきたら、立ち止まって考えてみる必要があります。
最後5つ目は意外と見落としがちな「否認」の気持ちです。「私は依存なんかじゃない」「いつでもやめられる」という思い込みが強くなってきたら、それこそが重要なサインかもしれません。
初期段階ならできる自己ケア
依存傾向に気づいたら、まず自分でできることから始めましょう。一番取り組みやすいのが「記録をつけること」です。例えば、スマートフォンの使用時間を記録するだけでも、自分の習慣が見えてきます。最近のスマートフォンには、使用時間を記録する機能が標準で搭載されていますよね。これを活用しない手はありません。
次に試してほしいのが「代替活動の発見」です。依存的な行動の代わりになる、健康的な趣味や活動を見つけることが大切です。例えば、運動を始めたり、友達と実際に会って話したり。オンラインの世界から少し距離を置くことで、新しい発見があるかもしれません。
「タイムマネジメント」も効果的です。だらだらと時間を使うのではなく、意識的に時間を区切って使うようにしましょう。例えば、「勉強30分したら、10分だけSNSを見る」というようなルールを作るのです。また、リラックス法を身につけることも大切です。ストレス解消のために依存行動を選んでしまう人は多いものです。深呼吸やストレッチ、軽い運動など、自分に合ったリラックス方法を見つけていきましょう。
ただし、これらの方法で改善が見られない場合は、無理に自己解決しようとせず、専門家に相談することをお勧めします。早期の専門家への相談で、回復までの期間が短縮されたというデータもありますので、依存性が高まる前に相談してみましょう。
専門家による回復支援 ~心理療法から相談窓口まで~
自己ケアの方法を学びましたが、依存症は立派な心の病気です。風邪や怪我をしたら病院に行くように、専門家のサポートを受けることで、より効果的な回復が期待できます。カウンセリングや薬を使用する薬物療法などがありますが、今回は薬を使わない治療法について紹介したいと思います。
専門家による4つの心理療法アプローチ
依存症治療には、心理療法という話をしながら、心理的な問題を解決したり、症状や問題行動を軽減したりすることを目的とした治療法が用いられます。その中で、代表的な4つの心理療法について、紹介していきます。
1つ目:認知行動療法(CBT)
最も広く活用されている心理療法の一つで、私たちの「考え方」と「行動」の両方に着目した療法になります。まず、依存行動が起こるきっかけを見つけます。例えば「課題でつまずいた時」「友達とケンカした時」など。次に、その時の考え方のパターンを分析。「どうせ私にはできない」「誰も分かってくれない」といった考えに気づきます。そして、その考えを「課題は難しいけど、先生に聞けば解決できるかも」「友達と話し合えば分かり合えるかも」というように、建設的な方向に変えていきます。
2つ目:集団精神療法
同じような課題を持つ仲間と一緒に回復を目指す療法です。依存の問題を抱える人は「自分だけが苦しんでいる」と感じている方が多いそうです。そこで、グループでの治療を行い、お互いの思いや悩みを共有することで、問題を解決していきます。一人じゃないって、心強いですよね。「自分だけじゃないんだ」という気づきが、大きな励みになります。厚生労働省の最新データでは、集団療法に参加した人の約75%が「孤独感の軽減」を実感しているそうです。
3つ目:家族療法
依存の問題は、本人だけでなく家族全体に影響を与えます。例えば、家族が過度に心配して本人の行動を制限したり、逆に問題を軽視したりすることで、状況が悪化することもあります。「家族間のコミュニケーションパターンの見直し」「適切な距離感の取り方の練習」「問題行動への効果的な対応方法の習得」「家族それぞれの役割の明確化」こうした家族関係全体の改善を目指します。特に若い世代の場合、家族のサポートは回復の大きな力となります。実際、家族療法を取り入れた治療では、回復率が約1.5倍に向上するというデータもあります。
4つ目:マインドフルネス
目の前にあることや今感じていることに意識を向ける実践的な治療法です。最近のスマートフォン依存研究では、私たちが無意識のうちに「現実逃避」としてスマートフォンを使用している実態が明らかになっています。マインドフルネスは、そんな無意識の行動に気づき、より健康的な対処法を見つける手助けをしてくれます。主な練習方法として、3分間、呼吸に集中する練習(スマートフォンを触りたくなった時の一時停止として活用)や体の各部分の感覚に意識を向けます(食べている物の味や食感、香り。持っている物の質感や温度などに意識を向けたりする)
外部リンク
参考:依存症対策全国センター 「依存症のための心理療法」
専門家による支援を受けるには
ここまで様々な心理療法について見てきましたが、「どこに相談すればいいの?」と思った方も多いのではないでしょうか。実は、身近なところに専門家による支援の窓口があります。
- 精神保健福祉センター
各都道府県に必ず設置されている公的な相談窓口です。専門の相談員が無料で対応してくれます。最近では、予約制のオンライン相談も実施している施設が増えていますよ。初めての相談なら、まずここから始めるのがおすすめです。
- 依存症専門医療機関
より専門的な治療が必要な場合は、認定医療機関の受診を検討しましょう。2023年時点で全国に150以上の施設があり、若者向けの専門プログラムも充実してきています。医療機関では、これまで説明してきた様々な心理療法を、状況に合わせた治療プランを提案してくれます。
外部リンク
参考:依存症対策全国センター 全国の相談窓口・医療機関を探す
- セルフヘルプグループ
同じ悩みを持つ仲間との出会いの場です。週1回程度の定期的なミーティングで、回復に向けた体験を分かち合います。医療機関での治療と並行して参加する方も多いですよ。
また、依存症や精神疾患について一人で抱え込む必要はありませんし、専門家に相談することも、決して恥ずかしいことではないんです!なので、今悩んでいる方も、今後に備えたい上記の相談窓口の検索を使うことで、お住まいの地域の支援機関を調べておくと良いかもしれません。
【まとめ】依存症との向き合い方を知ろう〜メンタルケアと心理療法で始める回復への道〜
「依存」という言葉を聞くと、どこか遠い問題のように感じる人も多いかもしれません。でも、スマートフォンやSNS、ゲーム、時には仕事さえも、私たちの生活に溶け込んでいるものが依存のきっかけとなることがあり、誰にでも起こりうることです。
だからこそ、早めに気づいて適切なケアを始めることが大切です。時には一人で抱え込んでしまいそうになることもあるでしょう。でも、家族や専門家による支援や、同じ悩みを持つ仲間との出会いが、力になってくれます。また、時には立ち止まることも、休むことも大切です。それぞれのペースで、一歩ずつ回復に向けて取り組んでいきましょう!