近年、新聞やニュース、SNSでも「メンタルヘルス」という言葉を耳にするようになりました。体の健康だけでなく、心の健康は私たち一人一人にとってとても大切なものです。今回は、「二次障害」という言葉を軸に、メンタルケアの基礎知識についてお話ししていきます。難しい専門用語はなるべく使わず、みなさんと一緒に理解を深めていけたらと思います。
精神疾患(精神障害)の基礎知識と理解
精神疾患とは?(症状と特徴について)
精神疾患の特徴は、心と体の両方に現れることが多いのが特徴です。たとえば、気分の変化や意欲の低下といった心の変化と共に、不眠や食欲不振といった体の変化が現れます。他にも頭痛やめまい、疲れやすさといった身体症状が出ることもあります。このような状態が2週間以上続く場合は、早めの対応が回復への近道となるので専門家に相談することをお勧めします。
精神疾患は、決して特別なものではありません。WHO(世界保健機関)の調査によると、世界中で4人に1人が人生のどこかで精神疾患を経験するとされています。まさに「心の風邪」のようなもので、誰もがかかる可能性のある病気なのです。
よくある精神疾患の種類と症状
精神疾患は大きく分けて、10種類(ICD-11国際疾病分類第11版を参考)になります。今回はその中でよくある精神疾患を紹介したいと思います。
- 1つ目:うつ病
うつ病は現代社会でもっとも多く見られる精神疾患の一つです。気分の落ち込みが続き、今まで楽しめていたことにも興味が持てなくなります。また、体がだるく疲れやすくなり、食事や睡眠のリズムも乱れがちです。自分を必要以上に責めてしまう傾向も特徴的です。
- 2つ目:不安障害
不安障害は、日常生活で感じる不安が過度に強くなってしまう状態です。誰でも将来のことを心配したり、新しい環境に緊張したりすることはありますが、不安障害ではその程度が強く、長く続きます。体の緊張や動悸、息苦しさといった身体症状を伴うことも多いです。
- 3つ目:統合失調症
統合失調症は、現実との認識にずれが生じることがある病気です。幻覚や妄想といった症状が特徴的ですが、それ以外にも、考えがまとまりにくくなったり、対人関係が苦手になったりすることもあります。早期発見と適切な治療により、多くの方が症状の改善を実感できています。
- 4つ目:心的外傷後ストレス障害(PTSD)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は強い恐怖や衝撃を伴う出来事(トラウマ体験)を経験した後に現れる精神疾患の一つです。具体的には自然災害や事故や事故事件に巻き込まれる、身体的・精神的な暴力を受ける、大切な人や家族との死別などの出来事がきっかけとなることがあります。
- 5つ目:発達障害
発達障害は、生まれつきの脳機能の特性です。コミュニケーションの取り方に独特の特徴があったり、特定の分野に強い興味を持ったりします。これは「個性」の一つとして捉えることができ、周囲の理解と適切なサポートがあれば、その人らしい生活を送ることができます。
精神障害者手帳と利用できる支援制度
精神疾患により日常生活に支障がある場合、精神障害者保健福祉手帳を取得することで、様々な支援を受けることができます。医療費の助成や公共交通機関の運賃割引、税金の軽減などが主な支援内容です。
これは決して特別なことではなく、必要な支援を受けるための大切な制度です。手帳の取得には主治医の診断書が必要となりますが、取得することで生活の質が大きく向上する可能性があります。また、就労支援なども受けやすくなり、社会参加への道が開けやすくなります。
外部リンク
参考:公益社団法人日本精神科病院協会 主な精神障害の解説
二次障害について知っておきたいこと
二次障害とは?定義と発生メカニズム
二次障害は、元々の精神疾患(一次障害)に加えて、新たに発生する心理的・社会的な問題を指します。たとえば、うつ病で学校を休みがちになった結果、友人関係が希薄になり、さらに社会不安が強くなってしまう、といったケースです。これは、周囲の理解不足や不適切な対応、そして本人の自己理解が不十分な状態が重なることで起こりやすくなります。
二次障害の特徴的なところは、最初の症状とは異なる形で現れることです。例えば、発達障害がある方が周囲の理解を得られないことでストレスを抱え、その結果うつ病を発症するといったことがあります。このような連鎖を防ぐためには、早期の気づきと適切な対応が重要になってきます。
二次障害が起こりやすい環境と予防
二次障害は、特に学校や職場といった社会的な場面で起こりやすい傾向があります。周囲の無理解や偏見により、本人が自分の状態を隠そうとして無理をしてしまったり、必要な配慮を受けられなかったりすることが原因となります。
予防のためには、まず本人が自分の状態を正しく理解することが大切です。そして、無理のない範囲で周囲に理解を求めていくことも重要です。完璧を求めすぎず、できることから少しずつ取り組んでいく姿勢が、結果的に二次障害の予防につながります。
心理療法による心のケア
心理療法は、専門家との対話を通じて心の健康を回復・維持していく方法です。特別な治療というよりも、専門家と一緒に自分の心と向き合い、より良い状態を目指していく過程だと考えるとよいでしょう。
心理療法には、大きく分けて3つの役割があります。
1つ目は、現在抱えている問題や症状の改善です。
2つ目は、問題が起きたときの対処方法を学ぶことです。
そして3つ目は、自分自身への理解を深め、より豊かな人生を送るためのサポートです。
現在、様々な心理療法が実践されていますが、中でも認知行動療法は科学的な効果が実証されています。これは、物事の受け止め方や考え方のクセを見直すことで、気持ちや行動をより良い方向に変えていく方法です。たとえば「失敗は絶対ダメ」という考えを「失敗も成長の機会」と捉え直すことで、行動の幅を広げていきます。
カウンセリングを受ける際の心構え
カウンセリングでは、専門家があなたの話に耳を傾け、一緒に問題解決の方法を探っていきます。初めは緊張するかもしれませんが、あなたのペースに合わせて進めていくので安心してください。カウンセリングでは、主にあなたの状況や悩みを聞かせていただきます。このとき、「こんなことを言っても大丈夫かな」と躊躇する必要はありません。専門家との信頼関係を築きながら、少しずつ自分の課題に向き合っていくことができます。
効果的な心理療法の受け方
心理療法を効果的に活用するためには、いくつかのポイントがあります。まず、定期的に通院や相談を継続することが大切で、一時的に症状が改善してもすぐに治療を中断しないことです。
そのため、専門家と相談しながら終了時期を決めていくことをお勧めします。また、学んだことを日常生活で実践してみることも重要です。たとえば、ストレスを感じたときの対処法を練習したり、新しい考え方を意識的に取り入れたりすることで、徐々に変化を実感できるようになっていきます。
家族や周囲の支援の重要性
心理療法を受ける際は、可能であれば家族や身近な人にも理解と協力を得ることが望ましいです。therapy(セラピー)という言葉の語源には「一緒に歩む」という意味があります。専門家だけでなく、周囲の人々と協力しながら回復を目指していくことで、より良い結果が期待できます。
外部リンク
参考:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法(CBT)
日常生活でできるケア方法
続いて、自宅など日常的にできるケア方法を紹介したいと思います。ここで紹介する方法を全て実践する必要はなく、自分やその人に合った方法を見つけて実践してみて下さい。また、実践する際のポイントは「自分のペースで無理をしないこと。そして可能であれば1回2回で終わらずに翌日以降も長く続けていくこと」です。そのためにも、無理のない範囲でできると良いですね。
生活リズムを整える
心の健康を保つ上で、規則正しい生活リズムはとても重要です。朝決まった時間に起きて、バランスの良い食事を取り、適度な運動をし、夜は十分な睡眠を取る。当たり前のことのようですが、これが心の安定につながります。
特に睡眠は重要で、質の良い睡眠を取ることで、日中の気分や集中力が大きく変わってきます。寝る前はスマートフォンの使用を控えめにし、リラックスできる時間を作ることをお勧めします。良質な睡眠のためには、寝る90分前からゆっくりと体と心を休める時間を作りましょう。
ストレス解消と気分転換の方法
ストレス解消には、その人に合った方法を見つけることが大切です。運動が好きな人はジョギングやヨガ、創作活動が好きな人は絵を描いたり音楽を聴いたりするのもいいでしょう。
大切なのは、「これをすると少し気持ちが楽になる」という自分なりの方法を見つけることです。また、1日の中で小さな休憩時間を作ることも効果的です。5分でも10分でも、意識的に何もしない時間を作ることで、心が少し楽になります。深呼吸をしたり、窓の外を眺めたり、お気に入りの飲み物を飲んだり、自分なりのリラックス方法を見つけてみましょう。
運動と食事の重要性
適度な運動は、心の健康にも良い影響を与えます。激しい運動である必要はなく、散歩や軽いストレッチでも十分効果があります。運動をすると、セロトニンやエンドルフィンといった、気分を良くするホルモンが分泌されます。また、食事も重要な要素です。特に、朝食をしっかり取ることで1日のリズムが整いやすくなります。ビタミンB群やオメガ3脂肪酸を含む食品は、心の健康に良いとされています。
周囲との関係づくり
心の健康を保つには、周囲の人々との良好な関係も大切です。ただし、これは必ずしも多くの友人を作る必要があるということではありません。自分が安心できる、信頼できる人との関係を大切にしていくことが重要です。また、SNSでのつながりに頼りすぎず、実際の対面でのコミュニケーションも大切にしましょう。困ったときは、一人で抱え込まず、家族や友人、先生などに相談してみましょう。学校や地域の相談窓口、オンライン相談なども利用できます。誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。
記録をつけることの効果
日記やメモなどで、自分の状態を記録することも効果的です。気分の変化や、睡眠時間、食事の内容などを記録することで、自分の調子の波が分かりやすくなります。また、調子が悪くなったときのきっかけやパターンを見つけやすくなり、予防にも役立ちます。スマートフォンのアプリを使って記録をつけるのも一つの方法です。ただし、記録をつけることが負担にならないよう、自分にとって続けやすい方法を選びましょう。
外部リンク
参考:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト(ストレスとセルフケア)
【まとめ】メンタルケアの基礎知識 二次障害を防ぐために知っておきたいこと
メンタルケアは、特別なことではありません。毎日の生活の中で、自分の心と体の声に耳を傾け、必要なケアを行っていくことが大切です。調子が悪いときは無理をせず、ゆっくり休むことも大切なセルフケアの一つです。できることから少しずつ始めて、自分なりのペースで続けていくことが、心の健康を保つコツです。
そして、自身やそのサポートにあたる家族や周りの方も困ったときは専門家に相談することが大切です。精神疾患は、決して特別な病気ではないので、風邪を引いた時と同じように無理をせず、早めの対応が回復への近道となるので専門家に相談してみましょう!