今回は、現代社会で大きな課題となっている「ひきこもり」について、メンタルケアの視点から見ていきたいと思います。ひきこもりの問題は、現代社会において深刻な課題となっています。ひきこもりの現状を理解し、メンタルケアの観点から効果的な支援方法を考えていき支援に携わる方々や、ご家族の方にとって、具体的なヒントとなれば幸いです。
ひきこもりについて知る
ひきこもりって実際どんな状態?
「ひきこもり」という言葉はよく耳にしますよね。けどひきこもりの線引きってどこからか知っていますか?実は決まっていて医学的な定義では「様々な要因の結果として、社会的な参加の場面が狭まり、原則的には6ヶ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」を指すんです。
ちょっとピンとこない表現ですが、わかりやすくすると”様々な理由により、6ヶ月以上にわたって、ほとんどの時間を自宅で過ごし、学校や仕事などの社会活動に参加できない状態”のことになります。ただし、病気やケガの療養、妊娠・育児期間中、介護などの場合には当てはまりません。つまり、本人が望んで選んだ生活というより、何らかの困難や課題によって、社会との関わりが持てなくなっている状態を指します。
最新の調査によると、日本のひきこもりの人数は、なんと推計で100万人を超えているとされています。特に注目すべきは、これはもはや若者だけの問題ではないということ。40代、50代のひきこもりも増加傾向にあり、社会全体で考えていく必要がある課題となっています。
ひきこもりへの理解と多様な要因
ひきこもりと言ってもその原因は様々で、実は周りが思っているよりもとても複雑です。主な原因は大きく4つに分類されます。
- 心理的要因(不安障害やうつ病などのメンタルヘルスの問題)
ひきこもりの大きな要因の一つで、特に他者との関わりに強い不安を感じる「社会不安」や、自分自身に対する評価が極端に低い状態である「自己肯定感の低下」は、社会参加を難しくする大きな要因となっています。また、過去のつらい経験がトラウマとなって、新しい環境に踏み出すことを躊躇させていることもあります。 - 社会的要因(いじめや職場でのストレス)
学校や職場でのいじめ経験が、深い心の傷(PTSD:心的外傷後ストレス障害)となって残ることもあります。現代社会特有の過度な競争原理や、SNS普及による人間関係の複雑化なども、大きなストレス要因となっています。職場での人間関係の困難さや、失敗体験による自信の喪失などが社会からの撤退を選択する要因となることがあります。 - 発達的要因(発達障害や社会的スキルの課題)
発達障害の特性を持つ方の中には、周囲との関係づくりに苦労を感じる方もいます。しかし、これは決して本人の努力不足ではなく、その方の持つ特性として理解することが大切です。例えば、感覚の過敏さやコミュニケーションの取り方の違いは、日常生活に大きな影響を与えることがあります。 - 家庭環境:過保護や過干渉、あるいは放任的な養育態度
過保護や過干渉な親子関係は、子どもの自立を妨げることがあります。一方で、放任的な養育態度は、必要なサポートが得られないという別の問題を引き起こします。また、家族間のコミュニケーション不足が問題の早期発見や適切な支援の妨げる原因となることもあります。
この様な原因が、ひきこもりのきっかとなっています。さらに、これらの要因は、互いに密接に関連し合っています。例えば、発達障害の特性により対人関係で困難を感じると、それが心理的なストレスとなり、さらに家族関係にも影響を与えるといった具合です。また、家庭環境の問題が自己肯定感の低下を招き、それが社会参加への不安につながるというケースもあります。
年齢による特徴の違い
ひきこもりの特徴は年齢によっても大きく異なります。支援方法を考える上で、各年齢層の特徴を理解することも大切なんです。
【若年層(10代〜20代)の場合】
若年層のひきこもりには、現代社会を反映した特徴が顕著に表れています。学校や就職に関する強い不安を抱えていることが多く、特に学校でのいじめ経験や進路選択の悩み、就職活動での挫折体験がきっかけとなるケースが目立ちます。一方で、この世代の大きな特徴として、SNSを通じた繋がりを保っていることが挙げられます。完全な社会的孤立状態ではなく、オンライン上では活発にコミュニケーションを取っているケースも少なくありません。
【中高年層(40代〜50代)の特徴】
中高年層のひきこもりは、「8050問題」として社会的にも注目されています。社会復帰への心理的ハードルが特に高いのが特徴です。その理由として、長期のひきこもり経験による自信の喪失や、年齢的なプレッシャー、社会変化への適応への不安などが挙げられます。また、以前の就労経験がある場合、その時の負の経験が強いトラウマとなっていることも少なくありません。他にも家族との関係性が問題となるケースがあります。
親の高齢化に伴う介護の問題や経済的依存関係の長期化、将来への不安や焦りなどがあり、これらに加えて経済的な問題も深刻化しています。長期の無職状態による貯蓄の減少、親の年金への依存、将来の生活設計への不安など、経済面での課題が重層的に存在することが多いこともあります。
外部リンク
参考:KHJ 全国ひきこもり家族会連合会 「ひきこもり」 笑顔への一歩
参考2:KHJ全国ひきこもり家族会連合会 【声明】内閣府調査の実態データとKHJ調査データより
参考3:厚生労働省 地域包括センターにおける「8050」事例への対応に関する調査
ひきこもりからの脱出-メンタルケアの重要性
なぜメンタルケアが大切なのか?
ひきこもり状態の方の多くは、何らかの形で心の悩みを抱えています。実は、ひきこもりの方の約半数が、不安障害やうつ病などの精神疾患を併せ持っているというデータもあるんです。だからこそ、心理療法などのメンタルケアは、回復への重要なステップとなります。
心理療法には様々な方法があり、その人に合った形で進めていきます。例えば、認知行動療法では、物事の受け取り方や考え方のクセを見直すことで、不安や抑うつ感の軽減を図ります。また、カウンセリングでは、安心できる環境の中で気持ちを整理し、自己理解を深めていきます。焦らず、急がず、でも着実に。心理療法は、決して「治療」だけを意味するものではありません。その人らしい生き方を見つけ、一歩ずつ前に進んでいくためのサポートにもなるんです。
そして、家族の関わり方も、メンタルケアの重要な要素となります。「家族療法」という心理療法があります。家族療法は、問題や悩みが起きている原因をその人個人にあるとは考えず、その人を取り巻く「関係」に着目した療法です。家族全体のコミュニケーションを見直し、より健全な関係性を築いて家族一人一人の心理的な負担を軽減しながら、本人の心の安定をサポートしていくという様な流れになります。
早期発見・早期支援が早期復帰へのポイント
ひきこもりの長期化を防ぐためには、早めの気づきと適切な支援が重要です。心の不調は、様々なサインとなって現れることがあります。些細なことで強い不安を感じたり、自己否定的な発言が増えたり、将来に対して強い悲観を示したりすることがあります。また、感情の起伏が激しくなることも、心の不調のサインかもしれません。例えば、
- 生活リズムの乱れが続く
- 家族とのコミュニケーションが減少
- 外出を極端に避けるようになる
- 趣味や好きなことへの興味が薄れる
これらの変化に気づいたら、まずは優しく声をかけることから始めてみましょう。大切なのは、否定や批判を避け、本人の気持ちに寄り添う姿勢です。「どうしたの?」「何か困っていることある?」といった、開かれた質問から会話を始めるのが良いとされています。また、必要に応じて、専門家への相談も検討してみましょう。カウンセリングや医療機関での相談は、本人や家族の大きな支えとなります。
外部リンク
参考:厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」
具体的な支援方法と社会復帰
家族ができるサポートとは
まずは、本人の気持ちを理解し、安心できる環境づくりから始めましょう。「おはよう」「おやすみ」といった基本的な声かけの継続や「一緒にご飯食べない?」「この番組面白いけど見ない?」など、強制せずに誘いかけることで、自然なコミュニケーションのきっかけを作ってみるといいですね。注意点として、焦らず、急がず、本人のペースを尊重することです。変化を強く求めすぎると、かえってストレスとなり、ひきこもり状態が長期化する可能性があります。日常の何気ない会話を大切にし、本人が話しやすい雰囲気を作ることから始めてみましょう。また、基本的な生活リズムを保つための支援も重要です。部屋の掃除や換気、適度な明るさの確保など、生活環境を整えることで、心身の健康維持につながります。ただし、これも本人の意思を尊重しながら、少しずつ進めていくようにしましょう。
専門的な支援の活用する
家族だけで抱え込まず、必要に応じて専門的な支援を活用することも大切です。地域には様々な支援機関があり、状況に応じて適切なサポートを受けることができます。
例えば、精神保健福祉センターや保健所では専門家による相談が可能で、地域若者サポートステーションでは、職業訓練や就労支援のプログラムが用意されています。
また、ひきこもり地域支援センターでは、本人や家族への総合的な支援を行っています。最近では、直接の対面が難しい場合でもオンラインでのカウンセリングや相談も増えています。そのため、自宅からでも専門家に相談できるため、始めるのに敷居が低く利用機会が広がっています。
社会復帰を焦らない
社会復帰は、一足飛びに実現するものではありません。段階的なステップを踏みながら、着実に進んでいくことが大切です。初めは自室から居間に出てくる時間を少しずつ増やすことから始め、家族との交流を徐々に広げていきましょう。
次のステップとしては、家の周りの散歩など、短時間の外出から始めることができます。この時も、本人が安心して取り組める範囲から始めることが重要です。少しずつ行動範囲を広げ、成功体験を積み重ねていくことで、自信を取り戻していくことができます。
社会復帰の具体的な目標として、地域の支援機関への通所や、短時間のアルバイト、職業訓練への参加などが考えられます。ただし、これらも本人の状況や希望に合わせて、無理のないペースで進めることが大切です。
時には立ち止まることもあるでしょう。それも回復の過程の一つとして受け止め、焦らず進んでいくことが大切です。一歩一歩の小さな変化を認め、励ましながら、長期的な視点で支援を続けていくことが、確実な社会復帰につながっていきます。
相談・支援窓口などを下に記載しておきます。
参考4:全国精神保健福祉センター一覧(全国精神保健福祉センター長会)
【まとめ】ひきこもりの理解ーメンタルケアと支援方法の紹介
いかがでしたでしょうか。支援に携わる方々や、ご家族の方、今現在悩んでる方やそうでない方にとって参考になりましたでしょうか。ひきこもり支援で最も大切なのは、一人ひとりの状況に合わせた柔軟なアプローチをすることです。国や民間を含め少しずつサポート体制も増えてきてはいますが、まだまだ社会全体での理解を深め、誰もが安心して過ごせる環境づくりを進めていく必要があります。
ひきこもりとなる原因は様々で、一概にこれをすれば解決!という方法がありません。そのため、心配な方がいらっしゃったら、まずは身近な相談窓口に相談してみることをおすすめします。とにかく一人で抱え込まず、様々な支援を活用しながら、ゆっくりと前に進んでいきましょう。この記事を通じて少しでも多くの方がひきこもりについて考え、行動するきっかけとなれば幸いです。