メンタルヘルスケアへの関心が高まる中、双極性障害への理解も少しずつ深まってきています。とは言っても皆さんは双極性障害って言葉を聞いたことがありますか?馴染みのない方もいらっしゃると思うので、今回は双極性障害の特徴や症状、効果的な心理療法、そして日常生活での工夫についてお伝えしていきたいと思います。一緒に、双極性障害について知り、メンタルヘルスや精神疾患についての理解を深めていきましょう。
双極性障害(精神疾患)の特徴と心の動きを知る
双極性障害って何?
双極性障害は、気分の波が大きく上下する精神疾患の一つです。かつては「躁うつ病」とも呼ばれていましたが、現在は国際的に「双極性障害」という呼び方が一般的となっています。厚生労働省の調査によると、日本における双極性障害の生涯有病率は約1%とされており、およそ100人に1人が経験する可能性のある疾患です。また、症状が現れる年齢は20代前後が最も多く、若い世代での発症が特徴的です。
双極性障害の主な症状と特徴
双極性障害の特徴的な症状は、「躁(そう)状態」と「うつ状態」を繰り返すことです。これらの症状は、人によって現れ方や期間が異なります。症状の種類によって、「双極I型障害」と「双極II型障害」に分類されることもあります。
躁(そう)状態の特徴とは
躁状態とは、1週間以上にわたって異常な高揚感が続きます。主な症状として
- 普段以上にテンションが高くなり、多弁になる
- 睡眠時間が極端に少なくなる(3-4時間でも平気に感じる)
- 次々と新しいことを始めたくなる
- 自信が過剰になり、危険を顧みない行動をとることがある
などがあります。「この調子なら何でもできる!」という感覚は、躁状態の典型的な心理状態です。しかし、この状態は周囲から見ると明らかに「いつもと様子が違う」状態として認識されることが多いことが特徴です。
うつ状態の特徴とは
うつ状態とは、著しい気分の落ち込みが特徴です。何事にも興味や関心が持てなくなり、強い疲労感や身体の重さを感じます。主な症状として
- 気分の著しい落ち込み
- 強い疲労感と意欲の低下
- 睡眠の乱れ(不眠や過眠)
- 自己否定的な考えの増加
などがあります。これらの症状が2週間以上続く場合にはうつ状態の可能性があります。
生活への影響と気づきのポイント
双極性障害は、日常生活のさまざまな側面に影響を及ぼします。仕事や学業面では、集中力や意欲の変動によって業務効率が低下したり、躁状態での過剰な業務遂行が起きたりします。対人関係においても、コミュニケーションの取り方が大きく変化することがあります。
最近の研究では、双極性障害の方の約60%が発症から適切な診断までに平均5年以上かかっているというデータがあります。これは、躁状態を単なる「活動的な時期」と認識してしまいがちなことが要因の一つとされています。
また、双極性障害の発症の要因には、生物学的要因(脳内の神経伝達物質の変化や遺伝的な影響)や環境的要因(強いストレスや生活リズムの乱れ、重要な人間関係の変化など)があります。
また、双極性障害の早期発見のためには、日常生活における変化に注意を向けることが重要です。特に「睡眠時間の急激な変化」「活動量の著しい増減」「周囲から見て、いつもと様子が違う」といった変化があった場合には注意が必要です。症状や影響は人によっても異なるので、一人ひとりの状態に合わせた適切なケアが大切になってきます。
参考2:日本うつ病学会 双極性障害治療ガイドライン 双極性障害2023
双極性障害の回復と安定のために有効な心理療法とは
双極性障害の治療において、薬物療法と並んで重要な役割を果たすのが心理療法です。心理療法は、症状への対処方法を学び、再発を防ぐための重要なスキルを身につけることができるんです。また、日常生活の質を向上させ、より安定した状態を維持するための助けとなります。
心理療法で期待できる効果
心理療法を継続的に受けることで、さまざまな面での改善が期待できます。まず治療を通じて、心への警告サインに気づく力が養われ、早い段階で症状を認識できるようになります。また、その事に対する効果的な対処法も身につけられるため、症状の悪化を防ぐことが可能になります。
また、不規則になりがちな生活リズムが徐々に整っていき、安定した日常を送れるようになります。これに伴って、食事や運動といった基本的な生活習慣も自然と健康的なものへと変化していきます。
さらに、人間関係の面でも大きな変化が現れます。治療を通じて学ぶコミュニケーションの技術が家族や友人、職場での関係をより良好なものにしていきます。また、周囲からのサポートを受ける方法を学ぶことでき、必要な時に適切な援助を受けられるようになります。このように、心理療法は生活全般にわたってポジティブな変化をもたらすことができるんです。
主な心理療法の種類と特徴
いい事だらけの心理療法ですが、その治療法にはいくつかの種類があります。ここでは代表的な療法をいくつか紹介したいと思います。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、考え方のパターンや行動の傾向に着目する治療法です。双極性障害を含む他の精神疾患にも有効な療法となります。双極性障害における認知行動療法では、次のような取り組みを行います。
- 気分の変化を記録し、パターンを理解する
- 気分の波が起こるきっかけを特定する
- より適応的な考え方や行動パターンを学ぶ
例えば、「すべて自分の責任だ」という考えが浮かんだとき、その考えを客観的に見直し、より現実的な視点で捉え直す練習を行います。
対人関係・社会リズム療法
この療法は、人間関係とライフスタイルの安定性に焦点を当てた治療法になります。特に生活リズムの安定は、症状の安定にとても大切です。そのため
- 日常生活のリズムを整える
- 人間関係のパターンを理解する
- ストレスフルな状況への対処法を学ぶ
といったことを行い、睡眠時間、食事、運動などの日課を規則正しく保ち、気分の波を緩やかにしていきます。
家族療法
家族療法は、患者さんだけでなく、ご家族も一緒に参加する治療です。「どうやってサポートしたらいいのかわからない」「家族としてできることは何だろう」といった、ご家族の不安や疑問にも答えてくれるのがポイントです。家族みんなで病気のことを理解し、より良いコミュニケーションの取り方などを学ぶことができます。例えば、声をかけるタイミングや、「元気そうだから大丈夫かな」と様子を見守るべき時など、実際の生活の中での対応方法を考えていきます。家族だけを対象とした勉強会やグループセッションを開いている医療機関もあるので、家族の状況に合わせて参加方法を選ぶことができます。このように、本人の治療をしっかりサポートしながら、家族全体でより良い環境づくりを目指していく事ができるのが家族療法の特徴です。
また、心理療法は、一人ひとりの状況や必要性に応じてカスタマイズすることができます。専門家と相談しながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。また、必要に応じて複数の心理療法を組み合わせることや薬物療法との組み合わせで、より効果的な治療が可能となります。
外部リンク
参考:国立精神・神経医療研究センター そもそも認知行動療法ってなに?
参考2:精神神経学雑誌オンラインジャーナル 双極性障害の治療を考える
双極性障害時のメンタルケアと日常生活での工夫
双極性障害と共に安定した日常生活を送るための具体的な工夫について紹介したいと思います。ただし、人によって症状が異なるので、あくまでも参考として捉えて頂けたら幸いです。また、必要に応じて、医療専門家に相談しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう!
生活リズムを安定化させる
双極性障害の症状の安定には、規則正しい生活リズムが重要な役割を果たします。毎日同じ時間に起きて、食事をし、適度な運動を行うことで、心身の調子を整えやすくなります。特に睡眠時間の確保は大切で、就寝・起床時間をできるだけ一定に保つことがよいとされています。
継続的な通院と服薬
医療機関との関係を大切にすることは、症状の安定に欠かせません。調子が良い時でも定期的な通院を続け、処方された薬は医師の指示通りに服用することが大切です。気になる症状や副作用があれば、すぐに主治医に相談しましょう。自己判断での服薬の中止や変更は、症状の悪化などにつながり、復帰が遅くなる可能性があります。
ストレスマネジメントをする
日々のストレスをうまく管理することも重要です。自分なりのストレス解消法を見つけることが大切ですが、それが健康的な方法であることを心がけましょう。例えば、軽い運動や趣味の時間を持つこと、リラックスできる音楽を聴くことなどが効果的です。また、調子の良い時でも、活動のペースは控えめに保つことが大切です。「やりすぎない」「休む時は休む」といった意識を持ち、自分のペースを守ることを心がけましょう。
周囲のサポートや記録をつける
家族や友人、専門家など、信頼できる人々のサポートを受け入れることは、大きな助けとなります。困ったときに相談できる人を持つことで、心理的な負担が軽減されます。また、日々の体調や気分の変化を記録することで、早めに症状の変化に気づくことができます。気分の浮き沈みや、睡眠時間、食欲の変化など、気になる点があれば記録しておくと、医師や専門家との相談時にも役立ちます。
【まとめ】精神疾患の1つ「双極性障害」を知る 〜日常生活に活かせる心理療法〜
双極性障害は、適切な治療とケアによって症状をコントロールすることが可能な精神疾患です。この記事で解説してきたように、医学的な治療に加えて、日常生活での工夫も重要な役割を果たします。症状の波があることで不安になることもあるかもしれませんが、早期発見と適切な対応により、安定した状態を保つことができます。
回復への道のりは、一人ひとり異なります。焦らず、ゆっくりと自分のペースで進んでいきましょう。そして、精神疾患は風邪やインフルエンザと同じように病気の1つです。なんとなく行きにくいと思っても、困ったときには一人で抱え込まず、医療機関や信頼できる人に相談していきましょう。